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東京高等裁判所 昭和38年(行ナ)144号 判決 1964年5月26日

原告

ジャバックス株式会社

右代表者代表取締役

岡崎嘉平太

右訴訟代理人弁理士

佐藤薫

被告

特許庁長官

佐藤滋

右指定代理人通商産業事務官

江口俊夫

同通商産業技官

小更清一

主文

昭和三五年抗告審判第二三四七号事件について、特許庁が昭和三八年九月二六日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  請求の趣旨

主文同旨の判決を求める。

第二  請求の原因

一、原告は、もと商号を株式会社日本放電加工研究所と称したが、昭和三四年二月二六日訴外井上潔から同人の発明にかかる「電解加工装置」につき特許を受ける権利を譲り受け、昭和三四年三月七日特許出願をし(昭和三四年特許願第六八四四号)たところ、昭和三五年五月七日付で、本願は特許第一二九七四九号明細書に記載された技術内容から容易に推考できるものと認め旧特許法(大正一〇年法律第九六号)第一条の発明と認めることができない旨の拒絶理由通知を受けた。その後原告は昭和四五年六月前記商号をジャパックス株式会社と変更し、昭和三五年六月二七日意見書と共に訂正書を提出したが、昭和三五年七月一九日付で拒絶査定を受けた。原告はこれを不服として昭和三五年八月二九日抗告審判を請求し(昭和三五年抗告審判第二三四七号)、昭和三六年三月一四日これが請求理由を補充する補充書を提出すると共に訂正書差出書により、全文訂正明細書及び訂正図面を提出した。これに対し審判官は、昭和三八年五月三一日付で、「ノズルより電解溶液を噴出せしめ被処理金属表面に吹付け、この間電流を流して電気化学的に加工すること(金属表面技術昭和二六年一月号三七頁〜四〇頁)及び電解中に於て超音波を照射し電解作用を促進せしめること(同昭和二六年四月号六三頁〜六七頁)は夫々公知である。本願はこれら公知の事実より当業者の容易になし得る程度のものであつて、旧特許法第一条に規定する特許要件を具備しないものとする」との拒絶理由を通知して来た。よつて原告は昭和三八年七月二〇日付で意見書と共に訂正書を提出したのであるが、特許庁は昭和三八年九月二六日付で本件抗告審判の請求は成り立たない旨の審決をし、その審決書の謄本は昭和三八年一〇月二日原告に送達された。

二、審決の要旨は、

「(一)本願の発明の要旨は、その特許請求の範囲に記載されたとおり電解加工法にあるものと認める。

(二)これに対し当審における拒絶理由の引用例として示した「金属表面技術」(社団法人金属表面技術協会発行)昭和二六年一月号三七頁〜四〇頁(以下引例の甲という)及び昭和二七年四月号六三頁〜六七頁(以下引例の乙という)の記載から当業者において極めて容易に類推実施し得る程度のものと認められ、旧特許法第一条に規定する特許要件を具備しない」

といつている。

三、しかしながら右審決は次の点において違法であり取り消されるべきものである。

(一)  審決の引用する引例の乙は原告に示されていない。すなわち、拒絶理由通知によれば、「同昭和二六年四月号六三頁〜六七頁」とあるから、本件審決は引例の乙について原告に対し拒絶の理由としてこれを示さないで本願を拒絶したものに相当し、旧特許法第七二条の規定に違反するものといわざるを得ない。

(二)  本発明の「電解加工法」は前記訂正書およびその図面に見る如く、「被加工体に対して加工用電極を微小加工間隙を隔てて相対向せしめ、前記加工間隙に電解液を噴流介在せしめた状態で、前記被加工体を正極、電極を負極として通電することにより陽極溶解を生ぜしめ、加工用電極の形状に従つて被加工体を電解加工する方法において、前記加工間隙に供給されて噴流介在する電解液に超音波振動を与えた状態で供給噴流せしめ、前記通電による加工を行うことを特徴とする方法」を要旨とするものであり、これにより電解加工間隙に電解液を噴流させて加工する場合、その電解液に超音波振動を与えるようにしたため、加工に障害を与える電解ガスを振動的に圧縮膨脹させ、膨脹時の圧力抵抗の少ない外部へ、この間隙を通る電解液と共に有効に排出することができ、従つてこの種の加工速度を充分増大することができると共に高精度の加工を期待することができる効果を奏するものである。

(三)  これに対し、引例のものはなんら被加工体に対して加工用電極を微小加工間隙を隔てて相対向せしめたものでなく、単に被処理金属に対しノズルより噴液を噴出せしめて金属板に局部的な電解処理を行うもので、例えば金属面に穴をあけることができるようにしたものに過ぎない。

(四)  すなわち、両者はその実施例等図面の構成よりも明らかなように、全くその電解加工方式を異にするものといわざるを得ない。まして、本件発明は上記の如き電解加工方式において特に超音波振動を与えた状態で電解液を供給噴流することにより、前述の特異の効果を奏するものであり、このようなことは、引例の如き公知事実から容易に推考できる程度のものとは絶対にいうことができないものである。

(五)  なお、引用例の如き電解加工方式と本願の如き加工方式が全く異るものであることは、引例の甲が一九五一年に公知になつているにかかわらず、一九五八年の出願である特願昭三四―三四三八二号(特公昭三七―一一四〇七号公報)、特願昭三六―四五〇七八号(特公昭三七一四六一三号公報)が新規性を認められ公告になつている事実に徴しても明白である。

本願の発明はむしろ右出願公告にかかるものの改良に関するものであるから、本件審決の示す公知事実から当業者が容易に推考し得るものとして拒絶するのは違法である。

第三  被告の答弁

一、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求める。

二、請求原因一、二および三(一)の事実は認めるが、同三(二)以下の点は争う。

原告は三(二)以下において「両者は電解加工方式を異にする」といつているが、引用例においても加工間隙に電解液を噴流介在せしめ、被加工体を正極、電極を負極として通電し、陽極を溶解して穴あけすなわち電解加工するものであるから、本願の方式といささかも異るところがない。ただ両者の実施例等図面の記載において、加工間隙に多少の差異があるに過ぎない。

また、特公昭三七―一一四〇七号及び特公昭三七―一四六一三号の発明をあげて両者の加工方式の相違を強調しているが、このような三段的論法によつたからといつて本件の発明の新規性を判断する上になんら影響するところがないと認める。

以上の如く本件発明は審決説示のとおり引用例の公知事実から当業者の容易に推考し得るものである。 第三 証拠≪省略≫

理由

一  原告主張の請求原因一、二および三(一)の事実については当事者間に争いがない。

二、右争いのない事実によると、特許庁は本願の拒絶理由通知においては雑誌「金属表面技術」昭和二六年一月号三七頁〜四〇頁及び同昭和二六年四月号六三頁〜六七頁を示したのみで、同雑誌昭和二七年四月号六三頁〜六七頁を示した事実がないのにもかかわらず、審決においては同雑誌昭和二七年四月号六三頁〜六七頁を引用して本願を拒絶したことが明うかであるから、審決は拒絶理由を示さずして本願を拒絶したものとして、本件について適用される旧特許法第七二条の規定に違背する違法あるものというべきであり、他の争点につき逐一判断するまでもなく、すでにこの点において取消を免れない。

三、よつて本件審決の取消を求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。(裁判長判事原増司 判事福島逸雄 荒木秀一)

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